光励起による超高速原子変位の観測 -電子軌道と原子結合の光制御-
2018年07月31日
2018年07月28日
東京大学大学院工学系研究科の出田真一郎日本学術振興会特別研究員(研究当時)、下志万貴博助教(研究当時)、石坂香子教授らの研究グループは、岡山大学異分野基礎科学研究所の石井博文大学院生、工藤一貴准教授、野原実教授らの研究グループ及びドイツのマックスプランク研究所との共同研究のもと、時間分解電子線回折法(Ultrafast Electron Diffraction: UEDを用いて、これまでにない超高速の原子位置の変化(原子変位)を観測することに成功しました。この手法は、レーザーによって作り出したパルス状の電子ビームを用いて物質の回折像を取得することにより、超高速で変動する結晶の原子変位の様子をストロボ撮影するものです。本研究では、特殊な原子結合と結晶構造をもつイリジウムダイテルライド(IrTe2)のダイナミクスを観測しました。実験データを詳細に解析することにより、光励起(れいき)により特定のイリジウム電子軌道が直接変調されることで、イリジウム同士の強い結合に基づく結晶構造が超高速で崩壊及び再構成することを世界で初めて明らかにしました。本研究の成果を礎に、今後は、光メモリ等のデバイス開発につながる超高速スイッチングや原子結合の光制御へ向けた研究が広く展開されることが期待されます。
本研究成果は2018年7月27日(米国東部夏時間)に米国科学誌「Science Advances」で公開される予定です。
本研究は、東京理科大学特定研究助成金、並びに日本学術振興会・科学研究費助成事業・若手研究B(15K17709)の助成を受けました。
■発表のポイント
- 高い時間分解能(10-13秒)を有するパルス電子ビームを用いて、これまでにない超高速の原子変位の直接観測に成功した。
- 光で電子軌道を変調することにより結晶構造を制御する新しいメカニズムを提唱した。
- 光メモリ等のデバイス開発につながる超高速スイッチングや原子結合の光制御への可能性を示唆するものである。
雑誌名:Science Advances(米国時間7月27日にオンライン版掲載予定)
論文タイトル:Ultrafast Dissolution and Creation of Bonds in IrTe2 Induced by Photodoping
著者: S. Ideta, D. Zhang, A. G. Dijkstra, S. Artyukhin, S. Keskin, R. Cingolani, T. Shimojima, K. Ishizaka, H. Ishii, K. Kudo, M. Nohara, and R. J. Dwayne. Miller
DOI番号:10.1126/sciadv.aar3867
アブストラクトURL:http://advances.sciencemag.org/content/4/7/eaar3867
<詳しい研究内容について>
光励起による超高速原子変位の観測 -電子軌道と原子結合の光制御-
<本件お問い合わせ>
分子科学研究所 極端紫外光研究施設
助教 出田 真一郎(いでた しんいちろう)
(研究当時:東京大学大学院工学系研究科 日本学術振興会 特別研究員)
TEL:0564-55-7203
理化学研究所 創発物性科学研究センター
研究員 下志万 貴博(しもじま たかひろ)
(研究当時:東京大学大学院工学系研究科 助教)
TEL:048-462-1111
東京大学大学院工学系研究科
教授 石坂 香子(いしざか きょうこ)
TEL:03-5841-6849
岡山大学異分野基礎科学研究所
教授 野原 実(のはら みのる)
TEL:086-251-7828
図1:室温における電子線回折法で観測した回折像(左)と低温で測定した回折像(右)。低温で得られたイメージでは、白矢印で示されるように超構造を反映した4つの回折像が観測されている。
図2:時間分解電子線回折法による超高速原子変位の観測。電子線回折像の強度変化を光励起されてからの時間でプロットした図を示している(A、B)。横軸はピコ秒(ps:10-12秒)で示している。Cイリジウム原子結合(Ir-Ir原子間の太線)が光励起により崩壊し再構成される過程を時間に対して示した模式図。