講演会のお知らせ (11/17:萩原政幸 教授 (大阪大学理学研究科附属先端強磁場科学研究センター))
2016年11月10日
講演題目:スピン軌道液体的振る舞いを示すBa3CuSb2O9の強磁場多周波ESR
講師:萩原政幸 教授(大阪大学理学研究科附属先端強磁場科学研究センター)
日時:2016年11月17日(木)16:20
場所:コラボレーション棟3階 コラボレーション室
要旨:
幾何学的フラストレーションを有するスピン量子数1/2の擬二次元反強磁性体における量子スピン液体状態には大変関心が持たれている。カゴメ格子反強磁性体の場合、基底状態はスピン液体状態でエネルギーギャップを有するのか有さないのか、まだ決着はついていない。一方、三角格子反強磁性体の場合、120度構造を有することが理論的に示された。そのような中、Ba3CuSb2O9は、極低温まで磁気秩序を示さない興味深い量子スピン三角格子系として報告されていた[1]。しかしながら、詳細な構造解析[2,3]からCuイオンの三角格子ではなくてCu-Sbのダンベルが蜂の巣格子的な構造を形成している事がわかった。Ba3CuSb2O9には約190 Kで協力的ヤーン・テラー転移により六方晶から斜方晶に構造相転移する試料(Ortho)と、最低温度まで構造転移を示さず六方晶のままの試料(Hexa)がある。Cu/Sbが化学量論比に近いものがHexa試料であり、わずかCuの量が少ないものがOrtho試料になることがわかっている[3]。
これら二種類の単結晶試料のX-バンド 低周波数からsub-THzの高周波数までの強磁場多周波数の電子スピン共鳴(ESR)の測定をおこなった。X-バンド 測定においてOrtho試料では構造相転移温度190 K以下で磁気ドメインを反映した三種類の2回周期のg値の角度変化を示すのに対して、Hexa試料の場合はg値がほぼ等方的でわずかに6回周期を示すことがわかった。このHexa試料をsub-THzの高周波数まで測定したところ、低周波数ではほとんどg値が変化をせずに一つのローレンツ関数でよくフィットできるのに対し、高周波数ではシグナル形がひずみ、g値が大きく分かれて、X-バンドESRのOrthoサンプルのように異方的なシグナルに近いものになった。これらの結果から Hexa試料が軌道揺らぎを有するスピン軌道液体状態にあると考えられ、その揺らぎの時間スケールが20 Kで100ピコ秒程度であることがわかった[4]。軌道自由度は格子系と結合しやすく、低温で軌道自由度が生き残っているか否かは軌道の秩序化に伴う静的なヤーン・テラー歪みの有無を実験的に観測することが重要である。ESRはこの歪みをg値の異方性を通して調べる事ができ、Hexa とOrthoの二種類の試料を調べる事ができたので今回の結論に至った。これまでに軌道液体であると考えられてきたいくつかの化合物(LiNiO2やFeSc2S4等)では最終的には軌道が凍結していることがわかっており、これが軌道液体状態を示す最初の化合物であると思われる。
[1] H. D. Zhou et al., Phys. Rev. Lett. 106, 147204 (2011).
[2] S. Nakatsuji et al., Science 336, 559 (2012).
[3] N. Katayama et al., Proc. Nat. Acad. Sci. 112, 9305 (2015).
[4] Y. Han et al., Phys. Rev. B 92, 180410(R) (2015).
連絡先: 理学部物理学科 鄭 国慶 (内線7813)