時差ぼけ回復に関与する神経細胞を発見
2015年05月11日
岡山大学大学院自然科学研究科(理)時間生物学研究室の吉井大志准教授、ドイツのヴュルツブルク大学の国際共同研究グループは、キイロショウジョウバエを用いて、時差ぼけ回復に関与する脳神経細胞を探索。約14個の神経細胞が時差ぼけの回復に重要であることを世界で初めて明らかにしました。本研究成果は、2015年4月15日に米国の科学雑誌『Journal of Neuroscience』に掲載されました。
時差ぼけは、体内時計を持つ多くの生物に普遍的な現象で、体内時計が新しい時間に再同調する過程で起こります。これまで、モデル生物であるキイロショウジョウバエは、時差ぼけからの回復が非常に早いことが知られていました。
キイロショウジョウバエの概日時計のメカニズムは、ヒトの概日時計と非常に良く似ています。本研究成果がヒトに応用されることで、時差ぼけ抑制法の開発につながると期待されます。
<業 績>時差ぼけは、体内時計を持つ多くの生物に普遍的な現象で、体内時計が新しい時間に再同調する過程で起こります。これまで、モデル生物であるキイロショウジョウバエは、時差ぼけからの回復が非常に早いことが知られていました。
キイロショウジョウバエの概日時計のメカニズムは、ヒトの概日時計と非常に良く似ています。本研究成果がヒトに応用されることで、時差ぼけ抑制法の開発につながると期待されます。
本学大学院自然科学研究科(理)時間生物学研究室の吉井大志准教授は、ドイツの共同研究者らと共に、キイロショウジョウバエを用いて、体内時計(概日時計=1日を測る体内時計)の時差ぼけに関わる神経細胞の探索を行いました。約6年にわたる研究の結果、ある特定の神経細胞に、クリプトクロムとよばれるタンパク質が存在すると、時差ぼけから早く回復することを世界で初めて明らかにしました。
概日時計は、別の光条件に置かれると、新しい光条件に同調して時計の時刻合わせを行います。しかし、時刻合わせはすぐに終わらないので、数日間時差ぼけの症状が現れます。一方、キイロショウジョウバエでは約1日で新しい光条件に同調することができます。クリプトクロムと呼ばれるタンパク質が概日時計の光同調に関与していることがすでに明らかになっていますが、そのメカニズムはほとんど分かっていませんでした。
吉井准教授らは、脳の特定の細胞だけがクリプトクロムを持つハエを多数作成。時差ぼけ回復に関わる神経細胞を探索しました。その結果、ハエ系統の中で、5th s-LNvとLNdとよばれる概日時計を構成する神経細胞の一群でクリプトクロムが存在すると、時差ぼけの期間が有意に短くなり、約1日で新しい光環境に同調できることが分かりました(図1)。
図1.キイロショウジョウバエの脳にある時計細胞群(左)と、時差ぼけ回復に関わる時計細胞の拡大図(右)
キイロショウジョウバエの脳にある約150個の神経細胞が、概日時計を構成する「時計細胞」と考えられています。5th s-LNv細胞とLNd細胞は合わせて約14個の時計細胞群です。従って、5th s-LNv細胞とLNd細胞の約14個の時計細胞は、光同調に特化した役割を持つ時計細胞であり、それらが全時計細胞の中で支配的な役割を持っていると考えられます。この独裁的な階層性により、脳内に分布する多くの時計細胞がすばやく新しい光環境に同調することができると思われます(図2)。
図2.時計細胞間の階層性と時差ぼけからの回復 図3.キイロショウジョウバエと時差ぼけ
<見込まれる成果>
時差ぼけは海外旅行時など、一日の時間が大きくシフトすると引き起こされます。また、不規則な生活や夜間の交替勤務などでも起こります。サマータイムを導入している国では、サマータイムの切り替え時ごとに時差ぼけが発生することから、サマータイムの廃止が議論されています。このように、時差ぼけは生活の至る所で見られ、社会問題となっています。
キイロショウジョウバエの概日時計のメカニズムは、ヒトの概日時計と非常に良く似ていることが分かっていることから、本研究の成果がヒトに応用されることで、時差ぼけ抑制法の開発につながる可能性があります。
<補 足>
キイロショウジョウバエは概日リズム(約24時間のリズム)を制御する“時計細胞”が正確に同定されている非常にすぐれた実験動物です。脳内の約150個の神経細胞が、概日リズムに関わる「時計細胞」であることが明らかになっています。そのことから、キイロショウジョウバエを用いた概日時計の研究は、世界で非常に活発に行われています。
クリプトクロムは植物や一部の昆虫では、光を吸収するタンパク質であり、概日時計の光同調に関わっています。マウスなどの哺乳類では、光同調ではなく、概日時計の分子機構に関与しています。
研究室内で、実験動物に時差ぼけを引き起こすために、光条件の8時間のシフトを行っています。例えば、朝6時に光が点いていたのを、ある日から昼の14時に光が点くようにします。
本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(若手研究B)の助成を受け実施しました。
発表論文:Yoshii T, Hermann-Luibl C, Kistenpfennig C, Schmid B, Tomioka K, Helfrich-Förster C (2015) Cryptochrome-dependent and -independent circadian entrainment circuits in Drosophila. The Journal of Neuroscience 35: 6131-6141
発表論文はこちらからご確認いただけます。
報道発表資料はこちらをご覧ください
この研究成果は新聞報道されました。
記事 : 山陽新聞 2015年5月12日26面
山陽新聞社の許可を得て掲載しております。転載はご遠慮ください。
<お問い合わせ>
岡山大学大学院自然科学研究科(理学系)准教授
吉井 大志
(電話番号)086-251-7870
(FAX番号)086-251-7870
(URL)http://www.biol.okayama-u.ac.jp/tomioka1/top.html