細胞内で発現しにくいタンパク質の合成を促進する翻訳因子を発見!
2024年05月07日
岡山大学
東京工業大学
◆発表のポイント
- タンパク質を構成するアミノ酸配列の中には、合成装置リボソームとの相性の問題から著しく発現を困難にする「難翻訳」配列が存在します。
- こうした「難翻訳」配列の合成を促進する因子として、大腸菌ABCF(ATP Binding Cassette subfamily-F)タンパク質群を新規に同定しました。
- ABCFタンパク質の利用、再設計から、産業や医療などに重要なタンパク質の効率的合成法につながることが期待されます。
生命を形作るタンパク質は、DNAにコードされた遺伝子配列をもとに細胞内装置リボソームによって合成され、この過程は「翻訳」と呼ばれます。
リボソームはどんなタンパク質でも合成可能、と思われがちですが、実際には得手不得手があり、さまざまな配列モチーフの合成に困難が伴っていることが明らかになってきました。
例えば正電荷(リシン、アルギニン)、あるいは負電荷に富むアミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)を立て続けに翻訳すると、リボソームによる合成が停滞、あるいは途中終了するなどの翻訳異常が発生します。
岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(理)の茶谷悠平准教授、東京工業大学科学技術創成研究院の田口英樹教授らのグループは大腸菌をモデル生物とした解析から、
「難翻訳」配列への対抗手段として翻訳伸長因子ABCFタンパク質が働いていることを新規に明らかにしました。
大腸菌などに保持される4種のABCFタンパク質は、それぞれが異なるアミノ酸配列に起因する翻訳異常を緩和、予防する役割を持ち、
多種多様なタンパク質の合成を可能にしているものと考えられます。
今後ABCFタンパク質の詳細な機能が明らかになることで、合成困難なアミノ酸配列モチーフを含む有用タンパク質の発現効率化などにつながると期待されます。
本研究は2024年4月25日、英国学術雑誌「Nucleic Acids Research」オンライン版に掲載されました。
◆研究者からひとこと
国際学会に参加した際に、「ABCFタンパク質は抗生物質耐性に寄与するとされるが、あなたが研究している合成困難なアミノ酸配列には効くのか?」との質問からスタートした研究です。今回の解析から、4種のABCFタンパク質はそれぞれが異なるアミノ酸配列の合成を促進していることが明らかとなりました。今後は各ABCFタンパク質がどのように配列特異性を持つかの詳細を明らかにすることで、現状では合成不可能(困難)なアミノ酸配列でも合成を可能にする改変型ABCFタンパク質の創出につなげていきたいと考えています。大腸菌など微生物でのタンパク質発現効率化などに関心のある方、ぜひご連絡ください。 | 茶谷准教授 |
■論文情報
論 文 名: The ABCF proteins in Escherichia coli individually cope with
"hard-to-translate" nascent peptide sequences
掲 載 紙:Nucleic Acids Research
著 者: Yuhei Chadani, Shun, Yamanouchi, Eri Uemura, Kohei Yamasaki, Tatsuya Niwa, Toma Ikeda, Miku Kurihara, Wataru Iwasaki and Hideki Taguchi
D O I: 10.1093/nar/gkae309
U R L: https://academic.oup.com/nar/advance-article/doi/10.1093/nar/gkae309/7658047
■研究資金
本研究は、日本学術振興会科研費(JP20H05925、JP 23H02410)、大隅基礎科学創成財団、
日本応用酵素協会、武田科学振興財団、山田科学振興財団の支援を受けて実施しました。
<詳しい研究内容について>
細胞内で発現しにくいタンパク質の合成を促進する翻訳因子を発見!
<お問い合わせ>
○研究に関すること
岡山大学 学術研究院環境生命自然科学学域(理)
准教授 茶谷 悠平
(電話番号)086-251-7856
(FAX)086-251-7876
東京工業大学 科学技術創成研究院
教授 田口 英樹
(電話番号・FAX)045-924-5785
○取材に関すること
岡山大学 総務・企画部 広報課
(電話番号)086-251-7292
(FAX)086-251-7294
東京工業大学 総務部 広報課
(電話番号)03-5734-2975
(FAX)03-5734-3661