室温で結晶内の電子秩序が強誘電性を生み出すことを発見-超高速電子材料の実現へ-
2021年02月19日
岡山大学
東京工業大学
【要点】
- 強誘電体は現代産業の基幹材料の一つで、強誘電機能の抜本的向上が求められている。
- イッテルビウムと鉄を含むセラミックス材料で、結晶内の電子の秩序が室温で強誘電性を生み出すことを第二次高調波発生と中性子散乱実験から見出した。
- 結晶のひずみを用いず電子移動を起源とする新しい強誘電体が、低抗電場、高耐久性、超高速応答を示す新材料として期待される。
岡山大学大学院自然科学研究科の池田直教授、東京工業大学 理学院 化学系の沖本洋一准教授、量子科学技術研究開発機構の藤原孝将研究員らの研究グループは、イッテルビウムと鉄を含むセラミックス化合物において、結晶内の電子の秩序が室温で強誘電性を生み出すことを発見した。
通常の強誘電体では、結晶中の「原子位置の偏り」によって電気分極を発現するため、分極の方向を反転させるためには原子自身を動かさなくてはならない。これが強誘電体の持つ機能性向上の本質的な妨げとなっていた。
今回の発見は、上記の鉄セラミックス材料の強誘電性が、鉄イオン中の電子の秩序により室温で発現することを第二次高調波発生と中性子散乱実験から見出したものである。電子移動を起源とするこの強誘電性は、低い抗電場、高い耐久性、そしてテラヘルツスケールに及ぶ高速の応答などといった従来型強誘電体では達成しえない新機能とその応用が期待される。
この研究成果は2月19日発行の英国科学誌Scientific Reports(サイエンティフィックリポーツ)オンライン版に掲載された。
図1:YbFe2O4の結晶構造。Yb-O層と鉄-酸素二重層がc軸方向に交互に積み重なることにより結晶が構築されている。
図2:YbFe2O4でa軸方向に観測されるSHG強度の入射偏光角度依存性。外周の角度は入射光の偏光と結晶軸の相対角度を表しており、強誘電体の対称性を反映したSHG角度プロファイルが観測された。
図3:YbFe2O4の鉄-酸素二重層(図1参照)における鉄イオンの価数移動と分極変化の様子。黄色の矢印は鉄イオンの偏りにより現れる電気分極の方向を示しており、電子の移動によってその方向をスイッチすることができる。
【論文情報】
掲 載 誌:Scientific Reports
論文タイトル:Direct Evidence of Electronic Ferroelectricity in YbFe2O4 Using Neutron Diffraction and Nonlinear Spectroscopy
著 者:K. Fujiwara, Y. Fukada, Y. Okuda, R. Seimiya, N. Ikeda, K. Yokoyama, H. Yu, S. Koshihara, and Y. Okimoto
D O I:10.1038/s41598-021-83655-6
<詳しい研究内容について>
室温で結晶内の電子秩序が強誘電性を生み出すことを発見-超高速電子材料の実現へ-
<お問い合わせ>
国立大学法人 岡山大学大学院自然科学研究科 教授
池田直
TEL: 086-251-7810 FAX: 086-251-7810
国立大学法人 東京工業大学 理学院 化学系 准教授
沖本洋一
TEL: 03-5734-3895 FAX: 03-5734-3895
国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門 研究員
藤原孝将
TEL: 0791-58-1831