「強すぎる光」に対する藻類の生存戦略を解明!強光を受けた際の有用藻類ユーグレナの光エネルギー利用機構を明らかに
2021年05月31日
◆発表のポイント
- 太陽光は光合成生物にとって必須であるにもかかわらず、過剰な光は光合成生物を死滅させる恐れがあります。過剰光に対する光合成色素タンパク質の調節機構は陸上植物では知られていますが、ほとんどの微細藻類では不明です。
- 有用藻類ユーグレナに過剰光を照射し、励起エネルギー伝達(主にクロロフィル間のエネルギーのやり取り)の変化を時間分解蛍光分光法により捉えました。光化学系タンパク質への励起エネルギー供給を抑える一方、励起エネルギー消光(クロロフィル・クロロフィルおよびクロロフィル・カロテノイド相互作用によりエネルギーが消光する現象)を促すことが明らかになりました。
- このメカニズムが、過剰光に対する防御策として機能する可能性が示唆されます。
岡山大学異分野基礎科学研究所の長尾遼特任講師の共同研究グループは、ミドリムシと呼ばれる二次共生緑藻Euglena gracilis(ユーグレナ)に強光照射し、光合成機能・色素発現および励起エネルギー伝達機構の変化を分析しました。この結果から、ユーグレナは強光により集光性色素タンパク質から光化学系タンパク質への励起エネルギー供給を抑制する一方で、エネルギー消光を誘導することが明らかになりました。本研究成果は5月26日、科学雑誌「Photosynthesis Research」にオンラインで掲載されました。
本研究成果は、「強光を感じ取ったユーグレナは、太陽光エネルギーをどのように利用するのか?」という問いに対して知見を与えるものです。この励起エネルギー伝達の調節機構は、ユーグレナにとっての重要な光捕集生存戦略かもしれません。
図. 強光照射されたユーグレナ細胞の平均蛍光寿命
◆研究者からのひとこと
ユーグレナは健康食品として利用されている有用微細藻類ですが、その光合成メカニズムの多くが不明です。本研究により、ユーグレナの光適応に伴う励起エネルギー伝達機構が細胞レベルで明らかになりました。今後はタンパク質レベルでの分析を進めることにより、詳細な理解を目指します。 | 長尾特任講師 |
■論文情報
論文名:High-light modification of excitation-energy-relaxation processes in the green flagellate Euglena gracilis
「強光ストレスを受けたユーグレナの励起エネルギー伝達機構の調節」
掲載紙:Photosynthesis Research
著 者:Ryo Nagao, Makio Yokono, Ka-Ho Kato, Yoshifumi Ueno, Jian-Ren Shen, Seiji Akimoto
D O I:10.1007/s11120-021-00849-9
<詳しい研究内容について>
「強すぎる光」に対する藻類の生存戦略を解明!強光を受けた際の有用藻類ユーグレナの光エネルギー利用機構を明らかに
<お問い合わせ>
岡山大学 異分野基礎科学研究所
特任講師 長尾 遼 (ながお りょう)
(電話番号)086-251-8630
(WEB)https://ryoagan.wixsite.com/nagaoryo
(Twitter)https://twitter.com/NagryPhotosyn